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Tokyo-NoKoGen iGEM 2012

"Coli expressとは"

 大腸菌ロボットを用いて薬などといった有用物質の生産や、環境汚染の浄化などの作業を行う場合、複数の作業を段階的に行う必要が有ります。例えば、まず大腸菌ロボットの数を増やして、次に物質Aを作り、最後に物質Bを作るといったようにです。このように複数の作業を段階的に制御するには適切なタイミングで遺伝子のスイッチを押す必要があります。現在遺伝子のスイッチをON, OFFする方法は様々なものが報告されていますが、できればこのスイッチは大腸菌自身がタイミングを判断して自動的にON, OFFできることが望ましいです。

 そこで2012年のTokyo-NoKoGenは、大腸菌自身がコミュニケーションをとり、然るべきタイミングで遺伝子のスイッチを入れるシステムの構築を目指しました。

 そのヒントとして、アメリカで昔、手紙を届ける手段として使われていた“Pony express”に着目しました。Pony expressでは馬を使って手紙をリレーすることで遠くの場所に届けていました。その考え方を応用し今回は、「光」をメッセージとしてとして次の大腸菌に伝えていくシステム“Coli express”の構築を目指しました。一つの大腸菌がメッセージとして光を放つと、隣にいる大腸菌がその光を受け取って、自身も光を放ちます。すると、またその隣にいる大腸菌も光を受け取って、発光します (図1)。このようなシステムを作るには

1.大腸菌が光を発信するシステム

2.大腸菌が光を受信するシステム

をつくる必要があります。そこで今回のプロジェクトでは光の発信機と受信機を作り、大腸菌で働くかどうかを調べました。

1.光発信機の作製

1-1. 遺伝子導入で大腸菌を光らせる

 御存知の通り、大腸菌はそのままでは光りません。大腸菌に光をメッセージとして会話を行わせるには、新しい遺伝子を導入し、大腸菌を光らせる必要があります。そこで着目したのが、発光バクテリアが持つlux operonという遺伝子です (図2)。発光バクテリアはその名の通り自ら光を発することが可能なバクテリアで、身近なところでは光るイカと共生しているものが居ます。

 この遺伝子群(lux operonと呼び、luxA〜luxEの5つの遺伝子から成ります。)をPCRと呼ばれる方法で複製(クローニング)し、遺伝子組換技術を用いて大腸菌に導入しました。大腸菌は37 ºC付近でよく育ちますが、発光バクテリアは深海に住んでいることもあり、比較的低い温度で育ちます。ということは、lux遺伝子群が熱に弱い可能性が有ります。そこでまず、lux遺伝子群を導入した大腸菌を20 ºCと30 ºCで育て、大腸菌が光るかどうかを観察しました。その結果、20 ºCという低い温度で培養した場合に30 ºCで培養した時よりも大腸菌が強く青緑色に光りました。このことから、lux遺伝子群を導入した大腸菌は光を発することが可能であることが分かりました。

1-2. 大腸菌が出す光の色を変化させる

 lux遺伝子群が作り出す色を変えることを試みました。様々な色の光をメッセージとして用いることができればより複雑なコミュニケーションが可能になると考えたからです。そこで着目したのがLumP、YFP、GFPと呼ばれる3つの蛋白質です。LumP、YFPは発光バクテリアの一種が持っている蛋白質で、それぞれ光の色を青色、黄色に変えることが分かっています。また、GFPは日本語で緑色蛍光蛋白質と言い、下村脩先生がノーベル賞を受賞されるきっかけとなった、オワンクラゲの持つ蛋白質です。GFPは発光バクテリア由来ではありませんが、青緑色の光を吸収し、緑色の光を発することが分かっているため、GFPを使えば緑色の光を作り出せると考えました。

 それぞれの蛋白質の遺伝子をlux遺伝子群と同様大腸菌に導入し、大腸菌の出す光の波長を観察しました。その結果、元々青緑だった光が、LumP蛋白質を用いた場合に青色に、GFPを用いた場合に緑色に変化しました(図3)。ただし残念ながらYFPを用いた場合は、色は変化しませんでした。発光バクテリアには色々な種族が有り、今回用いたlux遺伝子群の種族とYFPの種族の組み合わせが悪かったためYFPの場合に色が変化しなかったと考えられます。

1-3. 光発信機の改良

 ここまでで大腸菌に光を発信させること、そしてその光の色を変化させることに成功しました。さらに使い勝手を良くするために、大腸菌が光を発信するまでの時間の短縮を試みました。先ほど述べた通り、lux遺伝子群はluxA~luxEまでの5つの遺伝子から成ります。この内luxD以外の4つを先に大腸菌にたくさん作らせておき、光らせたいタイミングでluxDを作らせれば、lux遺伝子群全てを作らせるより早く大腸菌が光り始めると考えました。luxDを選んだのは、luxA, B, C, Eが互いに協調して働いている一方でluxDは独立した仕事を担っているからです。

 結果として、luxDのみを後から作らせた場合に大腸菌はより早く光り始めました。しかし、光の強さはlux遺伝子群を同時に作らせた場合より低くなってしまいました。今後luxDを作らせるタイミングの検討や、別の遺伝子を後から作らせるなどの工夫が必要だと考えられます

2.光受信器の作製

 大腸菌に光を受信させるために、好塩性古細菌が持つ光センサー蛋白質に着目しました。この光センサーはちょうど青緑色の光を受け取り、遺伝子のスイッチを制御する役割を持っています。この光センサーを大腸菌の遺伝子スイッチと融合し、大腸菌に青緑色の光を受け取らせることを試みました。

 遺伝子組換えした大腸菌を、光を当てた場合と当てない場合で育て、導入した光センサーによって遺伝子のON, OFFが起こるかを観察しました。その結果、光を当てていない場合に遺伝子がONに、当てた場合にOFFになることが分かりました(図4)。今後改良することで光が当たった場合に遺伝子をONにするように改良したいと思いっています。

Coli expressの詳細はNoKoGen2012 Wikiをご覧下さい。

​図1 Coli expressの概要図
図2 lux遺伝子群の発光メカニズム
図3 発光の色を変化させた大腸菌
図4 人工光センサー蛋白質のデザイン
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